みんながかかる病気
下肢静脈瘤
- 下肢静脈瘤ってなーんだ?
- 逆流防止弁とは?
- どうしてできるの?
- 第二の心臓
- だれがなるの?
- どうなる?静脈瘤
- 静脈瘤の種類は?
- どうやって治すの?
- 小さな静脈瘤も治せるよ
- 手術のやり方
- 手術を受けた方がいいですか?
- エコノミークラス症候群になりますか?
- ヒトの宿命
下肢静脈瘤ってなーんだ?ー足の静脈がふくらんでコブになる

下肢静脈瘤は足の血管がふくれてこぶのようになる病気です。良性の病気で、初期には特に症状はありません。
進行すると、だるさやむくみなどの症状が出てきます。女性の場合、軽くても見た目が気になる方は少なくありません。足がつる(けいれんを起こす)ことがしばしばありますが、静脈瘤が原因と気づいていない方が多数です。進行すると、湿疹でかゆみが生じたり、足にしみ(色素沈着)が生じてきます。春から夏にかけて静脈瘤に痛みや熱感が生じてきます。重症になると皮膚に傷ができて治らず潰瘍になったり、静脈瘤が破れて出血することがあります。

また、静脈瘤では血液が滞り、血栓ができることがあります。血栓は炎症を引き起こします。静脈瘤が熱をもって赤くなり、痛みが生じます。いったんできた血栓が治まっても、しみ(炎症後色素沈着)が残ることがあります。下肢静脈瘤は自然に治ることはなく、時間とともにゆっくりと進行していきます。
下肢の静脈には逆流防止弁がある


血液は心臓から動脈を通って組織に向かい、組織からは静脈を通って心臓にもどります。立っていると足では、動脈の血液の流れは下向きで、静脈の血液の流れは上向きになります。重力に逆らって血液が上向きに流れ、逆流しないように足の静脈には開いたり閉じたりする弁というしくみがあり、血液の流れを一方向に保っています。いわば逆流防止弁です。
下肢静脈瘤はどうしてできるの?

下肢の静脈には弁がたくさんあります。足の付け根の静脈弁が壊れて閉じきらなくなると逆流が生じます。静脈の圧力が上がり、静脈は太くなります。心臓からの落差分だけの静脈圧がかかるうえに、静脈が太くなって弁も閉じ切らなくなり、逆流が生じます。血液が逆流する弁不全が上から順に次々と生じてしまい、ももの付け根からふくらはぎに至るまで逆流するようになります。もともとは見えないほど細かった静脈は高い圧力にさらされて、徐々に太くなっていきます。こぶのように太くなると外からみてわかるようになり、静脈瘤と呼ばれます。静脈瘤が外からはっきりわかるほど拡張するのには長い時間がかかります。
筋肉ポンプ(第二の心臓)

下肢で血液が下から上に向かって昇っていくとは不思議です。静脈は筋肉の収縮に伴い揉み上げられて、血液は心臓に向かって昇っていきます。筋肉ポンプといいます。筋肉がゆるんだとき、上がった血液が重力によって落下しないように静脈弁が閉じ、逆流を防止します。下肢の血液は主に下腿の筋肉によって駆出され、第二の心臓と呼ばれます。運動して足の筋肉が動いていると足の血液は勢いよく循環して、心臓に戻っていきます。ただ立っているとき、椅子に座っているだけのときには、この筋肉ポンプが働かず静脈に血液が溜まってしまいます。すなわち、足がむくんで太くなります。また、静脈は太くなって弁が閉じ切らなくなるので弁不全すなわち静脈瘤の原因になります。
静脈瘤になりやすい人はだーれ?

立ち仕事の人はなりやすいです。ただ立っているだけのときは筋肉ポンプが働かず、静脈に血液が溜まって太くなるからです。経験的に男性ではラーメン屋さん、女性では美容師さんが典型的な静脈瘤になりやすい職業です。年齢とともに発症の頻度は増えますが、子供でも静脈瘤は発生します。遺伝的な要因もあり、母娘で静脈瘤という方はまれではありません。女性では妊娠や出産を契機に静脈瘤を発症することがあります。男性は女性の半分程度の頻度で下肢静脈瘤が生じます。ただし、重症のうっ帯性潰瘍は男性の方が多くみられます。
静脈瘤になるとどうなるの?
血液は動脈を通って全身に運ばれ、静脈を通って心臓に戻ります。静脈瘤では、静脈の弁がうまく閉じず、血液が足に滞りやすくなります。この状態を静脈うっ滞といい、足の重さやだるさ、むくみなどの症状が現れることがあります。

足の重さ・だるさは、比較的初期から現れる症状です。静脈血が足に滞ることで、夕方から夜にかけて症状が強くなることがあります。朝は症状が軽く、日中に徐々に強くなることがあります。

足のこむら返りは、足の筋肉のけいれんです。健康な人にも起こりますが、下肢静脈瘤の症状として現れることもあります。明け方に起こることがあります。

足のむくみは、下肢静脈瘤でみられる症状の一つです。指で押すと跡が残る、靴下の跡がつく、靴がきつくなるなどの症状が現れることがあります。足のむくみは、内臓やリンパの病気、長時間の立ち仕事・座り仕事、加齢など、さまざまな原因で起こります。

足のかゆみ・皮膚炎は、静脈瘤がある程度進行した場合に起こることがあります。皮膚が赤くなり、乾燥して皮がむけたり、次第に色素沈着が生じて黒ずんだりすることがあります。静脈血が足に滞ることで炎症が起こるためです。皮膚科を受診しても治りにくい足のかゆみや湿疹は、静脈瘤が原因のことがあります。

色素沈着・潰瘍は、静脈瘤が進行した場合にみられる症状です。静脈血が足に滞ると、皮膚に炎症が起こり、色素沈着が生じることがあります。さらに進行すると、皮膚に傷ができ、治りにくい潰瘍になることがあります。
血栓性静脈炎は、静脈瘤の中に血栓ができ、炎症を起こす病気です。静脈瘤が赤く腫れて熱をもち、痛みが生じます。症状に応じて、鎮痛薬や外用薬などで治療します。痛みが強い場合は、医療機関で処置を行うことがあります。

出血は、静脈瘤の血管壁が薄くなり、もろくなることで起こることがあります。静脈瘤が破れて出血した場合は、横になって足を上げ、出血部位を圧迫してください。出血が止まらない場合や量が多い場合は、救急受診してください。
静脈瘤には種類がある


下肢静脈瘤には、いくつかの種類があります。血管が太くなって盛り上がって見えるものを伏在型静脈瘤といい、主に伏在静脈の逆流が原因で起こります。細い静脈の分枝が拡張したものを分枝型静脈瘤、赤い血管がクモの巣のように広がったものをクモの巣状静脈瘤、青い静脈が網目状に広がったものを網状静脈瘤といいます。細い静脈瘤は、見た目が気になる場合に硬化療法で治療することがあります。
どうやって治すの?
圧迫療法

初期で症状がない場合は、経過をみることがあります。足のだるさや重さがある場合は、弾性ストッキングなどによる圧迫療法で症状を軽くできることがあります。弾性ストッキングは、足の状態に合ったサイズや圧迫の強さを選ぶ必要があるため、使用については医療機関にご相談ください。
硬化療法は、硬化剤を静脈瘤に注射して血管を閉じる治療法です。主に細い静脈瘤に対して行われ、外来で治療できます。
小さな静脈瘤は硬化療法で治療できます
網状静脈瘤、クモの巣状静脈瘤、分枝型静脈瘤などの細い静脈瘤には、硬化療法を行うことがあります。硬化剤を注射したあと、必要に応じて弾性ストッキングなどで圧迫します。すべての静脈瘤を治療できるわけではありませんが、目立つ静脈瘤を減らすことができます。
硬化療法前

硬化療法後

また、切除後残った静脈瘤にも硬化療法を行うことができます。
手術療法

症状が強い場合や、皮膚炎・潰瘍などの合併症がある場合には、手術を検討します。下肢静脈瘤は、静脈の弁がうまく閉じず、血液が逆流することで起こります。手術では、逆流の原因となっている静脈の流れを止めます。主な手術には、ストリッピング手術、高位結紮術、血管内焼灼術、血管内塞栓術があります。

1.ストリッピング手術
ストリッピング手術は、逆流している表在静脈にワイヤーを入れて、静脈を抜去する方法です。根治性に優れた方法ですが、現在は血管内治療が行われることが多くなっています。(画像は下肢静脈瘤.netより)
2.高位結紮術
高位結紮術は、逆流している静脈を足の付け根などで結紮し、血液の逆流を止める方法です。
3.血管内焼灼術

カテーテルを逆流する静脈の末梢側から入れ、カテーテル先端の熱で静脈を焼いて血流を止める方法です。レーザーによる方法と高周波による方法があります。タンパク質は熱を加えると縮んで固く変性します。肉を焼くと縮んで固くなるのと同じです。血管の一番内側にある内皮細胞も障害されて血液が固まりやすくなります。高い熱を用いるため、血管の周囲組織に熱による障害が生じないように、薄めた局所麻酔薬を焼灼する静脈の周囲に注入し、熱が血管の周囲に影響を及ぼさないようにします。従来のストリッピング手術と比較すると、体への負担が少なく低侵襲です。焼灼は伏在静脈の起始部より少し離して行う必要があるため、ストリッピング手術と比較すると、伏在静脈の分枝を処理できない分、再発が多くなると考えられます。ただし、術後1年では再発率や治療効果に差がないため、ストリッピング手術に取って代わった手術といえます。当院では、安定して焼灼できる高周波による焼灼術を行っています。
4.血管内塞栓術

カテーテルを用いて逆流のある静脈に、グルーと呼ばれる物質を注入して血管を閉塞させる方法です。グルーは接着剤のような性質をもち、水分と接すると固まります。固まるまでの時間は添加物により調整されており、深部静脈に流れにくいようになっています。治療成績は焼灼術と同等です。塞栓物質を注入する際、静脈周囲に麻酔を打つ必要がないため、簡便で短時間に手術を行うことができます。手術の成績は、ストリッピング手術や焼灼術と比べて遜色ないとされています。グルーによる免疫反応により、塞栓した静脈周囲の皮膚が赤くなり、熱をもつことがあります。免疫を抑えるホルモン剤(ステロイド)を用いた治療により、通常1か月以内に治癒します。ただし、グルーに対する難治性のアレルギーが生じた場合は、静脈ごと切除する必要があることもあります。その頻度は0.01%程度です。
焼灼術か塞栓術で原因となる静脈の逆流を止めると、ふくれていた静脈瘤は小さくなります。ぼこぼこにふくれてしまった大きな静脈瘤は、焼灼術や塞栓術だけではなくならないことがあるため、治療時に目立つ静脈瘤を取り除くことがあります。傷は1か所につき2~3mm程度と小さく、縫合が不要な場合もあります。傷は縫合するか、テープで閉じます。3~6か月後に残った静脈瘤が気になる場合は、注射による硬化療法を行うことがあります。
手術を受けた方がいいですか?

静脈瘤は良性の病気で、初期には特に症状がなく、治療が必要ない場合もあります。足が重い、だるいなどの症状がある場合は、圧迫療法のほかに手術を検討します。外見が気になる場合も、手術を検討することがあります。皮膚炎や色素沈着、血栓性静脈炎、うっ滞性潰瘍がある場合は、手術を検討します。静脈瘤はゆっくり進行することがあるため、症状や年齢などを考慮して治療方法を選びます。
エコノミークラス症候群になりますか?

下肢の深いところにある静脈(深部静脈)に血栓ができる病気を、深部静脈血栓症といいます。血栓がはがれて肺の血管に詰まると、肺血栓塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)を起こすことがあります。下肢静脈瘤と深部静脈血栓症は別の病気であり、下肢静脈瘤があるからといって、必ず深部静脈血栓症になるわけではありません。下肢静脈瘤の手術は、深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症の予防を目的に行うものではありません。長時間の座位や立位が続く場合は、医師に相談し、必要に応じて予防策をとることが大切です。
下肢静脈瘤と腰痛はヒトが二本足歩行を獲得した宿命

進化の過程で、ヒトは約600万年前に二足歩行を獲得しました。しかも、直立して二足歩行することで手が自由に使え、重い荷物を運ぶことができます。かつては四足歩行であったため、ヒトの体幹部の静脈には逆流防止弁がありません。四足歩行の場合、心臓と足の付け根がほぼ同じ高さで、血液が逆流しにくいからです。立ち上がって歩行するようになっても、体幹部には逆流防止弁がないままで、心臓との落差分の圧力が足の付け根の静脈にかかります。身長170cmの人では、約50cmH2O(36mmHg)の圧力です。この圧力が常にももの付け根にある下肢の最初の静脈弁にかかるため、弁が壊れやすくなります。ひとたび一番上の静脈弁に逆流が生じると、静脈が拡張して弁が閉じにくくなるうえ、下の静脈弁にも圧力がかかり、弁不全が生じやすくなります。このようにして次々と静脈弁の不全が生じ、逆流が大腿から下腿まで及ぶと、静脈瘤ができてきます。直立二足歩行では脊柱にも大きな力が加わるため、変形したり、痛みが生じやすくなります。このように、二足歩行への進化は生物として有利な反面、静脈瘤や腰痛などの病気につながる側面もあります。